室内の壁に生じたひび割れを見て、多くの人は壁紙そのものが裂けたと考えます。しかし、その根本的な原因のほとんどは、壁紙の下にある内装材、石膏ボードに隠されています。現代の住宅の壁は、多くの場合、柱や間柱といった構造材の上に石膏ボードという板を張り、その表面に壁紙を貼って仕上げられています。この石膏ボードの性質と施工方法こそが、壁紙のひび割れを理解する上で最も重要な鍵となります。石膏ボードは、その名の通り石膏を主成分とし、両面を厚い紙で覆ったボード状の建材です。耐火性や遮音性に優れ、加工がしやすいため、内壁や天井の下地材として広く利用されています。壁を一面作る際には、この石膏ボードを複数枚、隙間なく並べて張り合わせていきます。問題となるのは、このボードとボードの継ぎ目、つまりジョイント部分です。施工時には、この継ぎ目の段差をなくし、一体化させるためにパテ処理という作業が行われます。パテを塗って平滑にした上に壁紙を張ることで、見た目には一枚の壁のように仕上がるのです。しかし、建物は地震や振動、温湿度の変化によって常に微細な動きを繰り返しています。この動きによって、パテで固められた石膏ボードの継ぎ目部分に応力が集中し、パテに微細な亀裂が入ったり、ボード自体がわずかにずれたりすることがあります。表面に張られている壁紙は、この下地の動きに追従できずに引っ張られ、継ぎ目に沿って一直線に裂けてしまうのです。これが、ドアや窓の四隅、壁と天井の境目など、構造的に力がかかりやすい場所にひび割れが多発する理由です。つまり、壁紙のひび割れの多くは、壁紙自体が劣化したからではなく、その下の石膏ボードのジョイント部分が動いたことによって引き起こされる副次的な現象なのです。このメカニズムを理解していれば、壁紙のひび割れを発見しても、それは内装構造上、ある程度はやむを得ない現象なのだと冷静に受け止めることができるでしょう。