クロス張替えの現場において職人が最も神経を使いかつ時間をかける工程が下地処理です。一般の方から見れば古いクロスを剥がして新しいものを貼るだけの単純な作業に見えるかもしれませんが実は新しいクロスの美しさと耐久性の8割以上はこの下地処理で決まると言っても過言ではありません。古いクロスを剥がすと壁には裏紙と呼ばれる薄い紙が残ります。この裏紙が均一に剥がれていれば良いのですが実際には浮いている箇所や石膏ボードの表面を傷つけてしまっている箇所あるいは過去の補修跡による段差などが複雑に絡み合っています。これらをそのままにして新しいクロスを貼ると糊が乾く際にクロスが収縮し下地の凹凸が驚くほどくっきりと浮き出てしまうのです。具体的な処理としてはまずパテ処理が行われます。石膏ボードの継ぎ目や釘の頭剥がし跡の段差にパテを塗り込み乾燥した後にサンドペーパーで削って平滑にします。この作業を1回で終わらせるのではなく粗いパテで埋めた後に細かいパテで仕上げる2回3回塗りがプロの標準です。0.5ミリの段差さえも指先の感覚で察知し平らにしていく作業はまさに職人技です。特に薄手のクロスや光沢のあるクロスを選ぶ場合は光の反射でわずかな歪みが目立ちやすいためより厳密な下地調整が求められます。また古い家などで下地のボード自体が大きく歪んでいる場合はパテだけでは対応しきれないこともありその際は事前にベニヤ板を重ね貼りするなどの下地補強の提案が必要になります。さらに下地処理にはシーラー処理という工程も含まれます。これは古い裏紙と新しいクロスの接着を高めるためあるいは下地からのヤニやアクが新しいクロスに染み出してくるのを防ぐための下塗り作業です。特に喫煙者がいた部屋や湿気の多い北側の部屋ではこの処理を怠ると数ヶ月で新しいクロスに茶色いシミが浮き出てくることがあります。このように目に見える華やかな貼りの作業の裏側には地道で過酷な下地作りのドラマがあります。見積もりを比較する際あまりに工期が短すぎる業者はこの大切な工程を端折っているリスクがあります。一生のうちに何度もないクロス張替えだからこそ見えない部分にこそ時間をかけ誠実な仕事をしてくれる職人に依頼することが10年後も美しい壁を保つ唯一の方法なのです。手間を惜しまない作業姿勢こそがプロフェッショナルの証であり長く住み続ける家への敬意の表れでもあります。
プロが語る下地処理こそが仕上がりの鍵